26話)



 映画を楽しみ、昼食をすぎた時間だったので、中のレストランでイタリア料理を食べた。
 大皿に盛られたアツアツのピザはおいしかった。スパゲティも一皿で二人前だ。小皿にとって食べた。
 歩は、トロ〜リチーズが垂れてくるピザと苦戦する真理を、おかしげに見てくるが、自分だって食べる時はアツアツなんてやっている。
「ピザっておいしいけれど、食べにくいんだから。」
 悪戦苦闘する歩の様子に、勝ち誇ったような気分で、つぶやくと、
「違うモノの方が良かったかい?」
 なんて聞いてくる。
「いえ。ここで十分よ。とってもおいしい。」
 スパゲティをパクリ、至福の表情を浮かべて答えた真理に、歩はニッコリほほ笑んだ。
「そうか。それは良かった。」
 そう言った後は、二人でパクパク。夢中で食べて綺麗にさらえると、お腹いっぱいだ。
「御馳走様。」
 真理と歩が同時に言って、二人で顔を見合わせてぷーと笑い、勘定を済ませた後も、まだ3時には程遠い。
「ショップでも見て回るかい?」
 歩に促されて、真理は頷く。
 のんびり二人で店を見て回る気分は、デートしているそのものだ。
「真理。これどうだ?」
 ふいに手に取った服を、真理の体に当てて、歩が言う。
 ヒラヒラのついた、とても可愛い・・ネグリジェだった。
 所々透けているのが、エロティックそのもの。
「何考えてるのよ。」
 真っ赤になって、パチンと歩の肩を叩く。けれど、歩の方は真顔だ。真理の顔を見ながら、
「頼む。買わせてくれよ。別に着た姿を、直接見せろだなんて言わないから・・。」
 ネグリジェ片手に懇願されて、結局折れてしまったのは、真理の方だった。
 喜々として勘定をすませて
「ハイ、どうぞ。」
 と、渡してくる彼に、つい言ってしまう。
「変態・・。」
 と。その言葉に、歩はニヤッ〜と笑ってこう言い返してきた。
「そうさ。俺は変態だ。真理が俺をおかしくさせるんだよ。
 真理が悪い。」
 指をさされてあっけにとられてしまった。
 このやけくそ加減はどうだろう。
 やはり、歩は以前の歩ではなかった。
 世知辛い世間に揉まれて、繊細で傷付きやすく、奔放に生きた少年は、ここにはいなかった。
 一皮むけたのだ。
(エロおやじ・・。)
 心の中でつぶやきながらも、言うほど嫌に思わないから不思議な感じだ。
 車の中で、歩に触れられた時も。・・・ネグリジェを持ってきた時はさすがに引いたが、購入した後の歩の様子を見ていると、彼の前で着て見せてもいいかな。なんて思ったくらい。
 この人に触れられたい。見てもらいたい。と思う素直な気持ちは、真理の中でも・・いや茉莉の中でもだ。あった。
 とても不思議な感覚だった。